【映画レビュー】『黄龍の村』|Z世代のホラー×アクション【あらすじ】

黄龍の村アイキャッチ 映画評

こんにちは!あんまきです。

今回レビューする『黄龍の村(こうりゅうのむら)』は2021年公開の日本映画で、”日本バイオレンス映画界の新星“と名高い阪元裕吾監督作品です。

Z世代の友人が激賞していたので、遅ればせながらU-NEXT配信開始と共に視聴しました。

この記事は、ネタバレありの、登場人物解説・感想・考察、まとめです。

本作品はネタバレすると面白さが激減するので、くれぐれもお気をつけください。

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【ネタバレなし】『黄龍の村』あらすじ

夜の街でキャンプに行こうと盛り上がる大学生の北村優希(水石亜飛夢)、村井孝則(松本卓也)、鈴木うらら(鈴木まゆ)、遠藤なごみ(秋乃ゆに)。

翌朝、梶原健人(伊能昌幸)、工藤啓作(ウメモトジンギ)、谷村真琴(石塚汐花)、谷村睦夫(大坂健太)も加わりレンタカーに乗り込む8人の若者たち。

BBQを楽しんでからキャンプ場へ向かう道中、携帯も繋がらない山の中で車がパンクしてしまう。

助けを求め歩く内に、龍切村という見知らぬ村に辿り着く。

焚火の前で音楽を聴きながら返事をしない村人や包丁が頭に刺さった案山子… そこへ馬に乗った梅宮新次郎(陸野銀次郎)という老人が現れ、車を直してくれるという。

誘われるがまま新次郎の家を訪れる8人。

千代(小玉百夏)、奈穂美(上のしおり)、莉子(藤井愛稀)の 3人の女性に出迎えられ、既に人数分が用意されていた夕食や布団を訝しがりつつも、新次郎の半ば強引な誘いを断れず、ひと晩泊まっていくことに。

翌朝 物音で目覚める優希。窓から外を覗き見ると、不思議なお面を着け家の周りを練り歩く村人たちの姿が。

気味が悪くなり、早くここを出ようと皆を起こすが、啓作の姿が見当たらない。とにかく逃げ出そうと開けた扉の前には奈穂美と莉子が立っており、朝食の準備ができたと告げられる。

朝食の途中、突然うめき声をあげた孝則。

その背中に千代が包丁を突き立てている。唖然とする彼らの前に、銃を持った村人と村長 (海道力也)が現れる。

引用元:『黄龍の村』公式サイト ストーリーより
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基本情報

上映日

2021年9月24日

上映時間

66分

ジャンル

アクション

スタッフ

  • 監督・脚本・編集:阪元裕吾
  • 音楽:遠藤浩二
  • 配給:ラビットハウス
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【以降ネタバレ注意!】ざっくり登場人物解説・感想・考察

ここからネタバレスタートです!ざっくり登場人物の解説、感想、考察の順に進めます。

ざっくり登場人物解説

役名キャスト概要
北村優希水石亜飛夢若者グループのリーダー的存在。ムードメーカー。
なごみと交際していた?リアクションはウザいが気遣いのできる男。
莉子に射殺される。
村井孝則松本卓也運転手担当。村井の車がパンクしたことが龍切村に訪れるきっかけに。
うららと交際していた?朝食時に背後から千代に包丁で刺され死亡。
肉を削がれてオビンタワラ様への貢物にされる。
鈴木うらら鈴木まゆ孝則と交際していた模様。
小太郎が子作り相手を物色した際に「臭い」と言われる。
ワガママ。「冷たいの無理!」と川を渡るのを拒否すると同時に新次郎に射殺される。
遠藤なごみ秋乃ゆに優希と交際していた模様。フランクフルトがエロい。
孝則の次に供物となるよう指名され、新次郎に猟銃を向けられるが、箸で応戦。
猟銃を強奪し逃走するも、河原で石に躓き転んだ拍子に自分の頭を撃ち抜いて死亡。
梶原健人伊能昌幸復讐グループの一員。
平成10年に祖母(梶原ミヨコ)を儀式で殺され、復讐を決意。
青春時代は訓練に明け暮れていた。
胸に熊に引っかかれたような3本の傷と、背中に英字のタトゥーが入っている。
工藤啓作ウメモトジンギ復讐グループの一員。龍切村の儀式で兄を殺され復讐を決意。
夕食時に新次郎に車の修理を手伝うよう指名され、翌朝車中で殺害されたフリをし、潜伏。
その後死体の処理に訪れた莉子の首の骨をへし折り殺害。
谷村真琴石塚汐花睦夫、奈穂美の3人兄妹の妹。復讐グループの一員。
小太郎の子作り相手に選ばれ連行されるも返り討ちにした。奈穂美と共に千代を撃退。
谷村睦夫大坂健太真琴、奈穂美の兄。復讐グループのリーダーで予算管理担当。
服装が壊滅的にダサく、空気が読めず、ウザい。
LINEで作戦内容を共有する。筋肉はさほどない。
他メンバーが撃退した村人たちにトドメを刺す係。
本作戦の予算はゼロ6個。ほぼ睦夫の武器代。家はゴミ処理場。
国村洋司海道力也龍切村の村長。右腕に龍の刺青が入っている。
降参したと見せかけた睦夫が落とした手榴弾で死亡。
梅宮新次郎陸野銀次郎ベタベタの関西弁を話す龍切村の村民。
「ビーガンだけにピーマンは食べれるけどな」など独特のギャグセンスを持つ。
若者グループを自宅に引き入れ儀式の進行に大いに貢献した。
死んだふりをして難を逃れていた睦夫に銃殺される。
田村弘中村龍介日本刀を使う変なおっさん。
戦闘狂。梶原・工藤ペアと2対1での戦闘にも関わらず健闘した。睦夫にトドメを刺される。
千代小玉百夏新次郎宅の使用人のリーダー。中国拳法の使い手。
莉子の指をしゃぶるシーンなど同性愛的な描写あり。口が悪い。ビーガン。
真琴・奈穂美ペアと戦闘の末、睦夫に射殺される。
奈穂美上のしおり復讐グループの一員で、睦夫のもう一人の妹。
自ら志願し潜入捜査官として半年前から龍切村に潜入。
新次郎宅の使用人として働く。サブカル女子的仕草と話し方が特徴。
真琴にトドメを刺すフリをして千代に接近、真琴と共に千代を撃退する。
莉子藤井愛稀新次郎宅の使用人。龍切村で一番新しい村民。
煮立った土鍋を鍋つかみを使わず食卓に運ぶなどの教育を受けていた。
朝食時に孝則に「助けて」と書いたメモを渡していたことから、望まず龍切村に捕らわれていた可能性が高い。
工藤の死体処理に向かうが、実は生きていた工藤本人により殺害される。
小太郎安田ユウ チンピラ風情の龍切村村民。
子作り相手を探しており、真琴を見そめて連れ去るも返り討ちにあう。
イキっているけど本当は小物という典型的なかませ犬。
最期はオビンタワラ様に助けを求めるも捕食され死亡。
十兵衛一ノ瀬ワタルオビンタワラ様の正体。
子供の頃に龍切村に連れてこられ、狭い部屋に閉じ込められていた。
知能レベルは低いが身体能力は高い。

緊張と緩和のお手本的脚本

冒頭のチャラいノリからのホラー展開突入、そしてアクションになだれ込むテンポの良さがお見事!

それにしても、チャラい冒頭のノリが本当にうざいです。これ、アドリブなのだとか。

特に水石亜飛夢さん演じる優希。「ホテル行きーやー」と白目を剥いてみたり、彼女にフランクフルトを咥えさせた後に自分が食べたり。

さらに優希に続いて他の役者も思い思いにイキイキと演技をしているのです。くだらないのにバカテク演技合戦。この能力の無駄遣い感、嫌いじゃないです。

そんな中、復讐グループがじわじわとネタバラシを挟みます。

睦夫の「(真琴の他に)下(妹)もう一人いるんすけどね」発言や、BBQ中の工藤の「人殺しちゃったんだよね」、梶原の「青春を取り戻しにきた」など。

ただの空気が読めない残念な人たちと思いきや、ネタがわかった時に「あれはそういうことだったのか!」と腹落ちする快感。唐突すぎて観客が置いてけぼりにならないよう、誘導の役目も果たしています。

優希の走馬灯では、冒頭のスマホで撮影されたシーンがモノクロになり、エンドロールではあの復讐グループが若者らしくはしゃいでいる様子を同様のカメラワークで撮影し、カラーで映していました。

対比の巧みさも物語の残酷さと滑稽さに拍車をかけています。緊張と緩和のお手本的脚本ですね。おかげで鑑賞後にカタルシスが感じられるので、激賞する人が多いのも納得です。

Z世代のZ世代によるZ世代のための映画

『黄龍の村』は現代の若い世代に好まれそうな映画だと感じました。決してZ世代の良し悪しを問いたいわけではありませんのであしからず。

上映時間は66分。めちゃくちゃ短い。そして派手なアクション、わかりやすいホラー要素。もうコンテンツとして消費されるために生まれてきたような作品です。

Z世代は効率を重視し、失敗を嫌う傾向が強いとされます。娯楽である映像作品を見る時も、費やした時間に見合う満足感を得たいと考えます。

Z世代に限らずアラフォーの私にも身に覚えがあるので、キャリア教育及び能力主義社会で揉まれて生きてきた人は、無駄を楽しむのが苦手なのかもしれません。

その傾向は登場人物の設定にも影響しています。

梶原や工藤は青春時代を無為にして訓練したというセリフから推察するに、実際には苦労しています。ですが苦労している姿は感じさせず、常に余裕の表情で、時に面倒くさそうな態度で敵を圧倒します。

少ない労力で最大の成果を得るのが良しとされる昨今。熱血主人公が血反吐を吐きながら復讐を果たす作品にはもはや誰も共感できないのではないでしょうか。

復讐グループのリーダーである睦夫は完全な効率主義タイプ。これまでも冷静沈着なリーダーは多くありましたが、睦夫の場合は”冷めている“という表現が適しています。

面白いことは言えないし、ファッションセンスは壊滅的だけど、決めるところは確実に決める睦夫。

”前世ではダメダメニートだった自分が異世界に転生したら超絶イケメンで最強の勇者になりました“だと感情移入できないけど、妙にリアルな睦夫には共感できた人も多いのでは。

「まあとりあえずみなさん、我を失わないようにお願いします」や、LINEグループで作戦内容の共有するなど、とにかく新しいZ世代のヒーロー像に胸熱くなりました(私は睦夫推しです)。

供物の日本酒

オビンタワラ様は「剣菱」がお好きなご様子。新次郎宅の夕食時にも、卓上に剣菱の一升瓶がありました。

ラベルの柄などから、銘柄はこちらと予想。村の神様への捧げ物なのに「極上黒松」や「黒松剣菱」など、上位銘柄ではないんですね!

阪元裕吾監督は京都府出身なので、「黄桜」や「月桂冠」でもよかったと思うのですがあえての「剣菱」(ジャケ買い?)。

龍切村は電波が届かないほどの山奥にあることは判明していますが、その他の地名は明かされていません。

若者たちは東京から思いつきでキャンプをしに向かっていたので、関東近郊からそれほど離れていないと予想されます。

ますます剣菱である理由がわかりませんが、新次郎が関西人だそうなので、新次郎が兵庫県出身だから、兵庫は灘にある剣菱酒造を贔屓にしているという設定にしておきましょう!

「剣菱」は超大手酒メーカーなので全国どこでも入手できると言われればそれまでですが、なぜ「剣菱」をチョイスしたのか、日本酒好きとしては気になります。

マヨネーズがブリブリかかった人肉野菜炒めにはあまり合わないと思うんですよねぇ。

とりあえず、日本酒は紫外線に当たると劣化するので、お供えはそこそこにして早く飲んであげてほしいですね!

一人を殴ってる間、他の人が待っててくれるのなんでやろ

本作の魅力はズバリ「アクション」です。ですが私はアクションを冷静に観察してしまうタイプです。睦夫的視点とも言えます。

まず、一撃必殺が可能な銃を持つ睦夫がいるのに、いちいち敵をボコる必要があるのかを疑問に感じました。

案の定「しばきまわしてから殺すのは効率悪い」と言い放つ睦夫。ですが梶原は「このために来たんだろ」と返します。

やはり復讐がメインなのでボコるのが梶原、工藤、そして真琴の目的のようです。

真琴VS千代のシーンでもさっさと銃で撃てばいいのにと思いましたが、奈穂美(妹2号)を引き立たせるためにも戦闘シーンが必要だったんですね。姉妹がペアになって戦う、胸熱な展開です。

見せ場のために戦う、アクションのためのアクションという印象で個人的にはスッキリしませんが、この手の映画で詳細な心理描写は逆に野暮というもの。

こういうものだと思うことにしました。

日本刀男と梶原・工藤ペアの戦闘も、アクションのクオリティはとても高いと感じます。でも10分交代と言いつつ最終的には2対1となっていたのは卑怯だと思うのですが、みなさまいかがでしょうか。

あと、アクションシーンで一人が殴られてる間、他の人がちゃんと待っててくれるのはなぜでしょう。

ちゃんと順番を守って攻撃する梶原と工藤が可愛いです。

男性陣とは違い、谷村姉妹VS千代では、奈穂美が千代と組み合っている間に真琴が千代の背後に回って蹴りを入れたのが印象的でした。

女同士の戦いの方がダーティーですね。

回収されなかった伏線や謎設定たち

  • 龍切村(たつきりむら)の話なのに、なぜタイトルが『黄龍の村』なのか
  • 奈穂美(妹・潜入捜査官)はどうやって村人に受け入れられたのか
  • 千代のビーガン設定が許される謎。千代の正体は?
  • 莉子がなぜ龍切村に住むことになったのか
  • 谷村兄妹の復讐の理由(梶原と工藤はそれぞれ祖母と兄だが谷村家は明かされていない)
  • 若者グループと復讐グループはそもそもどういう関係?
  • オビンタワラ様は閉じ込められていたのに筋肉萎えてないのなぜ(暇だからずっと筋トレしてたのかな)

物語の辻褄は合っていますが、最後まで回収されなかった伏線や謎設定は多々あります。

龍切村の儀式が存在する理由も、「村の決まりやから」で片付けられるので、無理やり納得せざるを得ません。

しかしながら、これらの設定が明かされなくても面白い作品であることに変わりはありませんので、各自自由に想像して楽しみましょう!

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【まとめ】オビンタワラ様は囚われのお姫様だった

俺たちはこの国の未来を担う若者です。お前らみたいな古い風習に取り憑かれた老害どもは、死ね!(梶原)」

家族を殺され、青春時代を訓練に費やし、念願の復習を果たそうとする青年の心からの叫びです。

ただただチャラい序盤から正統派ホラーな中盤、そして終盤の怒涛のアクションの連続と、勢いだけで終わると思いきや、説明的セリフで「この映画が言いたかったこと」を示す親切設計。

諸悪の根源と思われたオビンタワラ様(十兵衛)も、子供の頃に村に連れてこられ、しかも父母を食べさせられていたという衝撃の事実が判明しました。彼も”古い風習に取り憑かれた老害ども“の被害者だったのです。

そんな十兵衛を、梶原は自分の助手として保護します。まるで王子様に救出されたお姫様のような十兵衛。

作中の死亡者数は多くても、人肉を食べるという大罪を犯していても、最後にすべて帳消しになるなんて、なんて優しい世界なんでしょう!多様性を認め合うとはこういうことなのでしょうか。

  • 66分という短い上映時間でこの密度
  • シンプルなのに意表を突かれる脚本
  • Z世代に受け入れられやすいヒーロー像

ある意味で、令和を象徴する作品として後世に名を残すことでしょう。

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